Columnコラム


質の高い幼児教育とは、“自分力”を高めること 教育経済学者・中室牧子先生に伺う、非認知能力の高め方

慶應義塾大学教授・中室牧子先生

子どもの教育には力を入れたいけれど、のびのび育てたいーー。そんな思いは、きっと多くの保護者の方が抱えていることでしょう。「『質の高い幼児教育』とは『子どもたちの幅広い興味・関心に基づく多様な活動』をサポートすることだと思います」そう話すのは、30 万部のベストセラーとなった著書『「学力」の経済学』でも幼児教育の重要性を説いている、教育経済学者の慶應義塾大学教授・中室牧子先生です。それでは、「質の高い幼児教育」とはどんなものなのでしょうか。

中室先生を招いてのスペシャルセミナー

やる気スイッチグループが運営するバイリンガル幼児園「Kids Duo International(KDI)」では、千葉と横浜の2会場で中室先生を招いたスペシャルセミナーを行いました。
今回の講演で語られたのは、「幼児教育の重要性」について。1960 年代にアメリカで行われた『ペリー幼稚園プログラム』の効果を検証したジェームズ・J・ヘックマン教授の研究を例として紹介されました。

研究結果によると、ペリー幼稚園で質の高い幼児教育を受けた子どもたちの成人後は、受けなかった子どもたちと比較して、より経済的に恵まれ、社会的に安定した生活を送ったことがわかりました。その後に行われた数々の研究でもまた、幼児教育の重要性を裏付ける結果が発表されています。

学力テストやIQ テストで計測できる「認知能力」に対して、質の高い幼児教育が与える影響は短期的なものです。一方、自制心や意欲、忍耐力といった「非認知能力」へのプラスの影響は長期にわたって持続することが明らかになりました。つまり、幼児教育は認知能力ではなく非認知能力を高める上で効果的だと考えられるのです。
講演内容を踏まえて、セミナー後の中室先生にお話を伺いました。

「就学前の幼児教育が大事」質の高い幼児教育とは

「自分でしあわせな人生を切り拓く力=自分力」を子どもたちが持てるよう、KDI ではさまざまな観点からカリキュラムを組んでいます。おそらく、KDI に興味を持ってくださった保護者の方々のなかには、幼児教育の必要性を感じながらも、子どもを自由にのびのび育てたいと考える方も多いのではないでしょうか。しかしながら、中室先生はこう指摘します。

「就学前から小学校の先取り学習をすべきだとお考えの保護者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、子どもたちの幅広い興味・関心に基づいた多様な活動こそ、質の高い幼児教育の核と言えます。長年、発達心理学の専門家は、子どもの発達に関する理論的背景をもとに幼児教育の質を計測しようと試みています。例えば、1980 年代にアメリカで開発され、30カ国以上で実務や研究に広く用いられている『保育環境評価スケール』というものがあります。このスケールが高い幼稚園や保育所で育つと、子どもたちにプラスのはたらきがあると示した研究結果があるのです。認知や言語面での発達や、就学後の学力などにも長期的に影響します。このスケールで“ 質が高い” 教育環境であると判定されるのは、小学校の先取り学習をすることではなく、子どもたちの幅広い興味・関心に基づく多様な活動ができるときです。多様な活動とは、例えば絵本や積み木、音楽、造形、ごっこ遊びなどの活動、自然に触れることや粗大運動などが挙げられます」

認知能力、非認知能力、親の働きかけ。3つのうち重要なのは?

前出の『ペリー幼稚園プログラム』は、質の高い幼児教育を提供するために、子どもたちの認知能力、非認知能力を高めることはもちろん、毎週の家庭訪問を通じて保護者への働きかけも行われていました。
つまり、認知能力・非認知能力・そして親の働きかけが質の高い幼児教育においては重要になります。認知能力を高めるために塾に通いながら、非認知能力を高めるために運動教室などにも通わせ、さらに親子で一緒にピクニックや博物館に出かけて……。子どもに対して全てできたらいいけれども、なかなか難しいですよね。使えるお金や時間は限られているなかで、優先した方がいい幼児教育はあるのでしょうか。

「米シカゴ大のジョン・A・リスト教授らの研究グループは、シカゴ郊外の貧困層が多い地域に、ヘッジファンドから10億円もの資金援助を受けて、実験用の幼稚園を新設しました。この幼稚園では、読み書き・そろばん・歌に重点を置いた認知能力を高めるグループと、『心の道具箱』と呼ばれるカリキュラムを通じて非認知能力を高めるグループに分けて、卒業後も彼らの追跡調査をしています。2000 年に始まった研究なので、実験の対象になった子どもたちは成人して間もない若者ですが、現時点では、非認知能力を高めるグループのパフォーマンスが高いことがわかっています」つまり、この結果から非認知能力の重要性がうかがえます。非認知能力を高めるための「心の道具箱」では、どのようなことをしていたのでしょうか。

「『心の道具箱』と呼ばれるカリキュラムは、ヴィゴツキーという旧ソビエト連邦の心理学者の研究がもとになっています。先生が指定した“ ある状況” で、人々はどんなことを言ったり、行動したりするかをごっこ遊びを通じて表現するのです。例えば『病院』の設定であれば、医者の役、患者の役など役割を決め、子どもたちが与えられた役割の中でどのような言動をとるのかを台本にして役を演じます。台本通りに演じることを通して、演技に集中すること、台本から外れた衝動的な言動や行動を抑えること、考えを整理することなどが身につくと考えられています」

「自分力」を身につける、KDI独自の教育カリキュラムとは

日本語と英語のバイリンガル教育を行っているKDI では、英語、知育、運動の三大カリキュラムに加え、20種類の職業を体験できる職業体験プログラム(ラーニングステーション)や合奏と英語劇を行う音楽発表会など、非認知能力を高める独自のプログラムにも力を入れています。英語教育に特化したインターナショナルスクールと比較しても、強みと言えるかもしれません。
例えば、職業体験プログラムでは働くことの楽しさや大変さを経験できます。園内には銀行やパン工場、スーパーマーケットなどの専用ブースがあり、子どもたちは物を売ったり、作ったりすることが可能です。ここから社会における仕事や人の役割を体感し、将来を想像できる力を養うことが期待できます。

また、KDI の運動指導(Ninja レッスン)では、日本女子体育大学学長で前東京大学大学院教授である深代千之先生が監修したプログラムを導入。プログラムはスポーツ科学によって裏付けられており、一人ひとりの運動能力を引き出す取り組みを日々行っています。
「忍者リーグ」という縦割り活動では、下の学年の子たちは上の学年の子たちに憧れ、上の学年の子たちはリーダーシップを発揮しています。異学年交流を通じて、非認知能力を高めることにもつながります。

認知能力を高める英語教育は有効か

小さいうちから第二言語を習得することについては見解が分かれますが、英語を早期に取り入れるのはどうなのでしょうか。
中室先生は、「英語を学習するチャンスがあるなら、挑戦してみてもよいのでは」と話します。

「外国語の学習を始めた年齢がその後の語学力と相関があることはよく知られています。ただし、これが年齢そのものの効果なのかはよくわかっていません。例えば、3歳でアメリカに移住した子どもなら、アメリカ人の子どもばかりの幼稚園に通って自然と英語を身につけていくでしょうが、10代になってからアメリカに移住すると、日本人の友人を作って日本語で会話するでしょう。こうなると、年齢のせいなのか、あるいは年齢に伴う環境のせいなのかを区別するのは難しくなってきます。 しかし、バイリンガルになることのメリットはあるでしょう。応用言語学の権威であるケース・ウェスタン・リザーブ大学の白井恭弘教授の著書によると、バイリンガルは単に複数言語でコミュニケーションができるというだけでなく、モノリンガルよりも認知的優位性があり、高い情報処理能力を持つそうです。」

目に見えない階段を上るためのサポートをする

KDI が掲げる幼児教育の方針のなかに、「目に見えない階段を上るためのサポートをすること」があります。子ども自身でやりたいことや目標を決め、それを達成することによって大きな成長や自信をつかんでいくための手助けをしていきます。 実は、質の高い幼児教育について、ジェームズ・J・ヘックマン教授もこう話しているそう。
「発達心理学の研究では、『Scaffold(足場を組む)』という表現をよく用います。子どもがほんのもうちょっと頑張ったら手に届きそうなところに足場を組み、押し上げてあげるという意味です」

答えを与えるというよりは、サポートによって子どもたちが自分でたどり着くことが幼児教育では大切なのです。

認知数字に支配されず、子どもたちを長い目で見よう能力を高める英語教育は有効か

子どもが幸せな人生を歩むために何ができるのだろう……保護者の方にはみな共通している悩みかと思います。中室先生は、「短期的に、教育の成果を上げようとしないことが大切では」と話します。

「テクニック重視の教え方をして点数を取らせることが得意な教員による指導は、短期的には学力テストで良い成績を取るのですが、長期的にみれば成績にマイナスの影響があることを示した研究があります。 一方で、概念的な理解を促し、より深く理解させようとした教員の指導を受けた生徒は、短期的には良い成績を取れなくて達成感も低いのですが、長期的に成績を伸ばしたことがわかっています。短期的な成果に目を奪われず、長期的に子どもたちの能力を伸ばす教育が重要ではないでしょうか」

早期英語教育には、英語力を身につける以外にもさまざまなメリットが存在します。異文化理解を深め、自信をもって英語でコミュニケーションをとれるようになるために、幼少期から英語に触れさせていきたいものです。

学習法は、習い事や教材を利用するほか、英語のCD・DVDを流すなどさまざまな選択肢が存在します。ただ、一定以上の英語量に触れさせ、英語を話す環境下に身を置くとなると、「インターナショナル幼稚園」や「プリスクール」が最適かもしれません。

早期英語教育を中心とした独自のカリキュラムを採用しているのが、バイリンガル幼児園「Kids Duo International」。卒園までの4年間で約3,000時間を英語で過ごすため、英語教育に関心の高い保護者の方から注目を集めています。
40年間にわたって培われた教育カリキュラムでは、語学以外の面にも注力。バイリンガル講師とのコミュニケーションや知能教育のほか、クラスメイトとの遊びを通して英語圏と日本の文化に触れられるなど、日本語と英語をバランスよく学ぶことも大切にしています。

※説明会は園舎ではない場所で実施される場合があります。

中室牧子 (なかむろ・まきこ)
慶應義塾大学 総合政策学部教授
1975年生まれ。慶應義塾⼤学卒業。コロンビア大学で博士号を取得(Ph.D.)。日本銀行や世界銀行で実務経験があり、2013年度から現職。 規制改革推進会議委員などの有識者委員、2021年9月からはデジタル庁のデジタルエデュケーション統括を務める。 「「学力」の経済学」は、30万部のベストセラー! 「「原因と結果」の経済学」は2017年ベスト経済書第1位! 専門は、教育経済学。